カナダ・ネルソン市の“民間大使”としてフリージャーナリストが先日、
壊滅的な被害を受けた女川町に大量の支援物資を運んできたほか、
ネルソン市で義援活動が行われていることを町に報告しました。
女川町を訪れたのは講演家、執筆家、意識研究家の肩書も持つ
ジョン・クレイグさん(58)。3月29日に来日し、福岡県柳川市で
チャリティー講演をした後、チャーターした4トントラックを運転して
4月13日に女川町入り。積んできたバイクや自転車、食料品を町に寄贈。
さらに、ネルソン市旗やネルソン市の子供たちが書いた激励の寄せ書き
などを安住宣孝町長に手渡しました。市旗には「フォージュ・アヘッド」
(障害を乗り越えて前進)という市のスローガンが書かれており、
かつてネルソン市を訪問したことがある安住町長は「ネルソン市が懐かしい。
貴重な多くの物をいただき大変ありがたい」と感謝しました。

ネルソン市旗を手にするジョンさん(中央)
と女川町の担当職員=町災害対策本部
女川町とネルソン市との繋がりは、太平洋戦争までさかのぼります。
終戦間近の1945年8月9日、女川湾海戦で連合軍カナダ人パイロットの
ロバート・ハンプトン・グレー大尉が旧日本海軍に撃墜されました。
第2次大戦でカナダ人最後の戦死者となったのです。22年前の1989年8月、
女川町はカナダ国の強い要請に基づき、女川湾を見下ろす崎山公園に大尉の
慰霊碑を建てました。その間、町民の間では「敵国兵士をなぜ祭らなければ
いけないのか」「年月が経過している。反対する時代でもない」などと
賛否両論が渦巻きました。最後には「恒久平和のために建立しよう」という
結論に達したのです。その後、女川町とネルソン市とはグレー大尉の慰霊祭や
中学生のホームスティをはじめ、さまざまな交流を続けています。
震災後、通信網の寸断でネルソン市長が安住町長と連絡が取れなかったため、
ネルソン市在住のジュリー奈美子さんに対応策を依頼しました。
奈美子さんはラジオ石巻のHPを見て同局にメール配信してきたのです。
ラジオ石巻はすぐそのお見舞いメッセージを女川町役場に届けました。
奈美子さんとラジオ石巻の連係プレーで遠く海を隔てたまち同士が
つながりました。文字通り懸け橋役となりました。その奈美子さん、
カナダ人と結婚しカナダへ移住した主婦の方です。
メッセンジャー役として女川町を訪れたジョンさんは
スコットランド生まれ。神秘的な世界に魅かれ、世界中を旅した後、
22歳から日本で生活。日本人と結婚し、長女がネルソン市にある
音楽学校に入学したのを機に同市に移住しました。執筆活動は今も
日本を拠点にしており、柳川市の観光大使も務めています。
日本と37年近くかかわりを持つことから、日本語、日本文化に
精通している方です。
ラジオ石巻は大震災特別番組の第2弾として21日、
「今、22年前の恩返し」〜カナダ・ネルソン市が女川町を支援〜と題し、
第1部・「敵国兵士を祭るまち」、第2部「民間大使ジョン・クレイグさん
に聞く」という内容で放送しました。「敵国兵士を祭るまち」は、
おととしの8月15日、終戦記念日特別番組として放送したドキュメンタリーです。
女川町とネルソン市との関係を知ってもらうため今回、再放送しました。
ジョンさんの話の一部を紹介します。
「市長の呼び掛けで支援活動がスタートした。折り鶴キャンペーンとして
子供たちが折り鶴を作ったり、ミュージシャンがコンサートを開いたりして
募金を続け、これまで200万円集まったほか、個人から数百万円の寄付があった。
さらに私が柳川市で行ったチャリティー講演と柳川市からの支援金も
計70万円になった」「折り鶴作戦は10歳の男の子の提案だった。
日本で折り鶴を千羽作ると願いが叶うという話を何かの本で読んだそうだ」

子供たちがいっぱい作った、
色とりどりの折り鶴=ネルソン市
「女川の被災状況を目の当たりにして声が震え、涙が止まらなかった。
大地も泣いているようだった」
「滞在中はリポーター、ジャーナリストとして、まちの様子を撮影したり、
避難所でインタビューしたりしてインターネットで、さらには、いずれ
出版して世界に伝え、後世に残す」
「私的な考えだが、義援金は、被災町民がネルソン市に行き、
安らぐための旅費などに役立ててはどうだろうか」
ジョンさんは女川町に1週間ほど滞在し、19日に福島県に向かいました。
また女川町を訪ね、その後について取材する予定です。
女川町がカナダ国の要請に基づき、かつて敵国だったカナダ人兵士の
慰霊碑を建立してから22年。女川町民の理解と寛大な心が、今度は
兵士の出身地・ネルソン市からの友情の支援に結び付きました。
この固い絆が永遠に続くことを願っています。

ネルソン市の支援活動や女川町での
取材活動について語るジョン・クレイグさん(左)
=ラジオ石巻Bスタジオ
専務取締役放送局長 鈴木孝也